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この悔しさをどうすればいいのか [執筆]

日本を出る日、新刊の新聞広告を見た。
服部◎澄著の最新刊「天の△舟」が大々的に宣伝されている。
そこには、女性開発コンサルタントを主人公にしたストーリーがあった。

「金をこの手に。それが彼女の、願いだった。途上国開発援助ODAを実行する「開発コンサルタント」に就職した黒谷七波。支援の美名のもとに、巨額のリベートが落ちるシステムを知り……。」

「おいしいですね、ODAは」。女性ながらに開発コンサルタント重役にまで出世、怖いものなしの栄転、大抜擢。光を浴びて輝く黒谷七波を襲う悲劇。そこに救いはあるか。裁かれざる罪との対峙を圧倒的筆力で描く堂々の傑作長編。 」

私は新聞を閉じた。
見ないことにしたいと思った。
その出版社が講◎社であることにもショックを受けた。
私は、編集長に開発コンサルタントの仕事内容を随分説明した。
「あなたの仕事がわからないから小説が面白く感じられないのかもしれないけど」
と言われ、どんな業務をしているのか、日本のODAがどうなっているのか
あれこれと説明した。

もちろん、私の説明がこの本のきっかけになっているとは限らないし、
調べようと思えば開発コンサルの存在はすぐにわかるはず。
でも、私にしてみれば、やっぱり悔しい。
結局、マスコミはODAをリベートと金儲けという切り口で書くことしか考えていない。

あの時、「松村さんと話していると、自分が下世話な人間に思えてくる」
と苦笑いしていた編集長さん。
私はその意味がよくわからなかったけれど、彼が(彼らが)求めていたのは、
ODAを舞台にした汚職世界でしかないのだろう。
その裏にある、悲哀、悩み、ジレンマを、くみ取り、そしてそれを日本に伝えたいという使命感より、
汚職と巨悪という構図で読者の心を掴む方が魅力的だし手っ取り早い。

もちろん、私の筆力など服部◎澄さんには到底叶わないだろう。
だから彼女に書かせて正解なのだと思う。
開発コンサルタントの私には、常識線で留まるブレーキがあって、
現状を飛び越え、超越した物語を書くような根性はないのだ。
あるいは、既に何が普通で何が普通じゃないのかについて、
あまりの海外勤務の多さで、麻痺しているところもあるし。

それでも、悔しい。
数日間、ひとりで天井を見ながら、負けを認めながら、悔しさは消えない。
「開発コンサルのことをかけるのは君だけだよ」と支えてくれた仲間に対する申し訳なさもある。
「誰も書いてくれないから私が書く」と頑張ってみたが、
プロの人気作家さんが手がけてくれるということは、私の役目が終わったということなのだろうか。

願わくば、服部先生が、ODA関係者がガッカリしない面白くて共感できる作品を仕上げてくれていますように。結構好きな作家さんだから、そう期待せずにはいられない。
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通りすがりの者

服部◎澄が何を書こうと関係ないと思います。同じテーマで書いてはいけないというルールがあるわけじゃなし、自分は自分のものを書けばいいだけです。現場にいるのですから、アウトサイダーがちょこちょこ調べて書いた程度の作品が消し飛ぶくらいの物を書けるはずです。そういう意気込みで書かなければ、作品に熱気も生まれません。
by 通りすがりの者 (2011-07-17 15:04) 

mika_m

>通りすがりの者さん、コメントありがとうございます。
まさに、私も今ご指摘の通りの心境です。刑事物やら新聞社ものやら、複数の作家が手がけている作品なら同じ舞台、素材を使うことは当然ですし、私は私で我が道を行くしかないんだなぁと。国際社会やODAが表舞台になるなら、それはパイが広がるってことで、歓迎すべきことです。

意気込み……そうですよね。何度も打ちのめされていますが、私はまだ倒れちゃいません。頑張ります。感謝!
by mika_m (2011-07-17 19:18) 

元Y紙記者亀太郎

一年ほど前、ロシアのODAで起訴された鈴木宗男代議士のもと私設秘書、名前は忘れましが、アフリカの方でした。この方が、「日本がアフリカのODAを縮小したことで、中国の激しい進出を許し、今や日本のでる幕はなくなにった」と注意をうながしておられました。僕たち田舎に住む人間にとっては、寝耳に水のニュースでした。政治が悪いのか、マスコミが報じないのか。日本の外交が、影になってがんばる協力隊の皆様の努力によることを、初めてしりました。ジャーナリズムといっても、メディアによっては、まったく信用できないものもあります。顔は笑顔でも、心は「氷」のように、ネタをもとめているものです。僕も経験がありますが、特ダネ記者というのは、概してそういう体質があります。発言は慎重に、言質を取られないようにはいりょしてね。
by 元Y紙記者亀太郎 (2011-07-27 13:11) 

mika_m

>元Y紙記者亀太郎さま、コメントありがとうございます。
ODA関係者というのは、基本的に「人を信じ」「希望を持ち」つような鈍臭いおばかさんなのだと思います。
マスコミの人にも仲のよい人がいるので、そうした人に紹介されるとつい私も信用してしまうのですが、今回のことで恐ろしさを実感しました。
恐るべし講◎社。あの笑顔の裏に、現場でがんばる開発コンサルに対する侮辱が潜んでいたとは……。
でも、私はまだ世界をまだ諦めていません。マスコミに関しても、諦めたくないな。中には、前向きに社会を捉えている人たちだっているはずですよね。
悪意になんて、負けない。
夢を追い続ける開発コンサルタントであり続けたいし、夢を人々に与えられるような作家になりたいです。
by mika_m (2011-07-31 03:34) 

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