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勇気ある撤退(1) [ネパール]

朝7時に出発した4輪駆動2台のチームは順調に調査を開始した。ローカル・コンサルが5人に私が加わったこの調査は、本格的なフィールド調査に入る前の調査手法の確認が主な目的である。地図上のSettlementと現状を照らし合わせ、世帯調査のサンプリング方法などを現実的なものにする必要があるのだ。道路開通間近だが、もともと山奥でまともな地図はない。舗装が進むにつれて道路沿いの村々の様子が変化しつつあるため、数年後の全線開通を前に、沿線状況を記録しておこうというのである。
総延長160キロ周辺に暮らす人々の生活状況をどのように調査分析するか。GPSでどの程度の建物を記録するか。
私たちはその実現可能なメソドを議論しながら順調に旅を続けた。
行き交うバスに、「バンダ状況は?」と聞く。
道がブロックされていないことを確認し、「今日は大丈夫。何とか予定をこなせそうだ」と思ったのだが……。
午後3時半。8割方目的を達成し、テライ地域へ入る前にホテルのチェックインを済まそうとした時に電話が鳴った。カトマンズのアシスタントからである。
「明日は全国レベルのバンダとなるらしい」
これまでが順調だったので、俄には受け入れがたい情報だった。しかも、この地域はかなりの田舎。こんなところにまでバンダが波及してくるとは思えなかった。
私はすぐにローカル・コンサルに相談した。彼らは携帯電話で情報を集め始めた。
「Risk Management Officeの友人は、明日から全国無期限バンダだと言っている」
「UNDPも」
「ジャーナリストからも、今夜中にカトマンズに戻った方がいいと言われた」
8時間掛けて来た道を、これから引き返すと言うのか……。しかも、山道。しかも未舗装。ガタゴト道で頭痛がしていた私は、やっと少し横になれると思ってホッとしていたので、今夜中にカトマンズに戻るという選択肢に言葉を失った。
「もう1ヶ所の目的地は諦める。その代わり、戻る途中で調査票のプリテストをしましょう」
数年前も一緒に仕事をしたことのある、信頼できるローカルコンサルタントの判断は明確だった。明るいうちに一番危険な崖っぷちの未舗装一車線道路を抜けられれば、夜11時にはカトマンズに着けるというのだ。
「ここでバンダに遭って数日間身動きが取れなくなったら大変だ」
無期限バンダでこんな田舎町から出られなくなれば、仕事にならない。安全のためパソコンをカトマンズに置いてきた私は、反論する余地がなかった。

(つづく)
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