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勇気ある撤退(2) [ネパール]

午後4時。ホテルの予約をキャンセルし、引き返す決断をする。
ネパールのバンダは、予測不能である。噂やら公開宣言やらが混ざって、果たしてバンダするのかしないのか、そのとき、その場所に遭遇しないとわからない。だいたい、バンダは日本語ではゼネスト、英語ではGeneral Strikeと訳されるが、それとはかなり内容が異なる。バンダはバンダなのだ。
日本でイメージするストライキは、労働者が職場改善や賃金交渉のために仕事をボイコットするというものだ。でも、ネパールのバンダは「政治決定が気に入らない」と道路をブロックして社会活動を強制阻止することで自己主張を実現させようというものだ。他者の迷惑を”人質”にして要求を通す意味ではストライキだろうけど、ストライキを実施する主体は異なる。最近は政党が実施者なのである。
「明日は○○党がこの政策に反対してバンダだ」と発表がある。
では、政党員が道をブロックするのかというと、そこも微妙。カトマンズではまとめ役がいるらしく、政党から注文を受けるとスラムで人を雇い、道路ブロックを要請するとのこと。「ノンポリだよ。お金をもらえばどの政党のバンダでも実施する」とローカル・コンサルは言う。

この手のバンダが流行りだしたのは4年前からである。当時はマオイストがやっていたのだが、そのうち村人が「道を隔てた向こうに電気が来ているのにうちには来てない。道を封鎖する」「映画でいいシーンがカットされていた。気に入らないから映画館の前を封鎖する」「うちの家の前で鶏が車にひかれた。頭に来たからバンダする」という無法状態になった。最近はこの手のハチャメチャ・バンダは減ったのだが、各政党がバンダ要員を雇って政治要求を通す政治ツールになってしまったようだ。
工事現場なども、バイクに乗った政党員や雇われ政党員が「作業をやめないと破壊する」と無茶ぶりを通す。道路でも「バンダに協力せず車で移動はけしからん。車に火をつける」という行為が起こる。殺人にまでは発展しないようだが、市民は「あーあ」といいながら従うしかないのである。

最近のホットイシューは「憲法制定」である。最も議論が混乱しているのは連邦制の問題で、どこでボーダー線を引くかについて合意が困難になっている。「カースト毎に連邦を作る」という案や「これまで通りでいい」という人や、「南部は独立させたい」という政党や……。もう4年も揉めていて、来る5月27日はいったい何度目の最終公布日なんだ、どうせまた延期だろう、というくらいのものである。もう国際ニュースにもならない。数ヶ月毎に延期になるから、年中行事のようになっている。

それでも人々は生活しなくてはならない。
民間企業は酷い損害だ。日雇い労働者だって、仕事がなければ給与がもらえない。先が見えず、何となく社会がどんよりしている。

「みかさん、This is Nepal!」
とB.Bが言う。
でも、どうしてだろう、私はこんなネパールが好きだ。
この社会で生きているB.B.をはじめとした仲間たちが好きだ。
彼らは絶望的な社会状況にありながら、貧困撲滅を夢見ている。まだネパールを捨てずにいる。(ひとりは移住を決めようとしているが……)
さあ、カトマンズへ!
私たちは車に乗り込んで今来た道を引き返し始めた。
暗くなる前に、未舗装一車線道路を抜けられるか……。

(つづく)
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