ギター一本で上京 [杉並区]
その日、私たちはセシオン杉並で待ちあわせた。
少し遅れます、とメッセが入っていたのに、
約束時間よりも早く、彼はソファーに座って待っていた。
「電車の乗り継ぎがうまく行ったので早く着いちゃいました」
立ち上がって挨拶をすると、満面の笑顔でそう言った。
茶色い髪の、痩せ型の青年。
ギターを大切そうに抱えてきた。
彼はどうしても音楽が好きで、
学校にいた時も好きで、
働き始めてからも好きで、
愛知県の地元から、徐々に東海地区をライブして回るようになって、
終いには、意を決して東京にやって来た。
「東京ってどう?」と訊いてみた。
彼は、ちょっと答えにくそうに、
「冷たい……かな」
と俯いたが、すぐに笑顔を取り戻し、
「でも、面白い人がたくさんいるし、刺激的で、楽しいです」
と胸を張った。
苦労してるんだろうなぁ。
母心が痛む。
同郷の友人が東高円寺に住んでいたので、
よく高円寺で路上ライブをやったらしい。
美術を志していたその友人は、
訳あって故郷に帰ってしまったが、
彼のためにプロモーション写真を撮ってくれた。
カラフルな絵の具に彩られた笑顔が、
友情の証なのだろうな。
私がイベントの主旨を説明すると、
「はい、大丈夫です。こういうステージで歌うことが出来るのは有難いです」
と、快諾してくれた。
高円寺地区には、こうした若者が大勢やってくる。
地方出身で、何か夢があって、
好きなことをしながら暮らしたいと頑張っている。
吉田拓郎とか、忌野清志郎も、高円寺あたりで夢を熱く語っていた。
地方出身の若者をゆるーく受け入れる商店街。
再開発されない古びた街なのに、
こうして今も若者が集まるのは、
故郷のなつかしさが漂っているからかもしれない。
彼に会って、イベントのテーマが固まった。
東京は、地方出身者の作った都である。
常に異文化を受け入れて、それが刺激となって新しい芸術が生まれて来る。
ゲストは地方出身者で東京で頑張るミュージシャンにしよう。
杉並区は小さな区だけど、既存の住民だけで縮こまっていてはいけない。
新しい風をもたらしてくれる若者の声を聴こう。
きっと、いいステージになる、と私は思った。
KUNIさんのホームページはこちら
写真:KUNI
少し遅れます、とメッセが入っていたのに、
約束時間よりも早く、彼はソファーに座って待っていた。
「電車の乗り継ぎがうまく行ったので早く着いちゃいました」
立ち上がって挨拶をすると、満面の笑顔でそう言った。
茶色い髪の、痩せ型の青年。
ギターを大切そうに抱えてきた。
彼はどうしても音楽が好きで、
学校にいた時も好きで、
働き始めてからも好きで、
愛知県の地元から、徐々に東海地区をライブして回るようになって、
終いには、意を決して東京にやって来た。
「東京ってどう?」と訊いてみた。
彼は、ちょっと答えにくそうに、
「冷たい……かな」
と俯いたが、すぐに笑顔を取り戻し、
「でも、面白い人がたくさんいるし、刺激的で、楽しいです」
と胸を張った。
苦労してるんだろうなぁ。
母心が痛む。
同郷の友人が東高円寺に住んでいたので、
よく高円寺で路上ライブをやったらしい。
美術を志していたその友人は、
訳あって故郷に帰ってしまったが、
彼のためにプロモーション写真を撮ってくれた。
カラフルな絵の具に彩られた笑顔が、
友情の証なのだろうな。
私がイベントの主旨を説明すると、
「はい、大丈夫です。こういうステージで歌うことが出来るのは有難いです」
と、快諾してくれた。
高円寺地区には、こうした若者が大勢やってくる。
地方出身で、何か夢があって、
好きなことをしながら暮らしたいと頑張っている。
吉田拓郎とか、忌野清志郎も、高円寺あたりで夢を熱く語っていた。
地方出身の若者をゆるーく受け入れる商店街。
再開発されない古びた街なのに、
こうして今も若者が集まるのは、
故郷のなつかしさが漂っているからかもしれない。
彼に会って、イベントのテーマが固まった。
東京は、地方出身者の作った都である。
常に異文化を受け入れて、それが刺激となって新しい芸術が生まれて来る。
ゲストは地方出身者で東京で頑張るミュージシャンにしよう。
杉並区は小さな区だけど、既存の住民だけで縮こまっていてはいけない。
新しい風をもたらしてくれる若者の声を聴こう。
きっと、いいステージになる、と私は思った。
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写真:KUNI
2018-04-26 16:06
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